「透析膜は大きいほど効率が良い」…そう思っていませんか?
実は、効率だけでなく血流量・プライミング量・TMP・コストなど複数の要因を総合的に考える必要があります。
この記事では、この4つの視点から臨床現場で役立つ膜面積の選び方を解説します。
- 血流量別の小分子・中分子の効率差をデータで把握できる
- 面積拡大によるプライミング量増の幅を具体的に理解できる
- TMP上昇を緩やかにする要因と面積の関係を学べる
透析効率を左右する透析膜面積の選び方【小分子・中分子別】
膜面積を大きくすると一般的に透析効率(クリアランス)は向上しますが、効果は溶質の種類や血流量(Qb:mL/min)によって異なります。
以下は、尿素(小分子)とミオグロビン(中分子)のクリアランスデータです。
尿素-クリアランス(mL/min) | ||
---|---|---|
膜面積(㎡) | Qb=200 | Qb=300 |
1.1 | 191 | 255 |
1.5 | 197 | 275 |
2.1 | 200 | 290 |
尿素の分子量は、約60 Da(小分子)
ミオグロビン-クリアランス(mL/min) | ||
---|---|---|
膜面積(㎡) | Qb=200 | Qb=300 |
1.1 | 69 | 76 |
1.5 | 92 | 100 |
2.1 | 121 | 132 |
ミオグロビンの分子量は、約17,000 Da(中分子)
・小分子(尿素)
- Qb=200:膜面積を1.1㎡ → 2.1㎡にしても +9mL/minと伸びは小さい
→ 小分子は膜透過性が高く、低血流量ではすでに飽和気味。
- Qb=300:同条件で +35mL/min向上
→ 面積性能を引き出すには血流量確保がカギ。
・中分子(ミオグロビン)
- Qbに関係なく、膜面積拡大で明確に効率上昇
→ 拡散速度が遅く、膜面積の広さが効率に直結。
【ポイント】
中分子の除去を重視する場合は、膜面積の拡大が効果的です。
小分子中心なら血流量も合わせて検討を。
【中分子除去の位置づけは「膜の分類編」で詳しく解説】

プライミング量と循環動態への影響
膜面積が大きくなると、プライミング量も増加します。
プライミング量(mL) | ||
---|---|---|
膜面積(㎡) | FB-Uβ | APS-SA |
1.1 | 65 | 59 |
1.5 | 90 | 82 |
2.1 | 125 | 112 |
2.5 | 145 | 128 |
- ニプロFB-Uβ:1.1㎡ → 2.5㎡で+80mL
- 旭化成APS-SA:1.1㎡ → 2.5㎡で +69mL
成人の循環血液量(約4〜5L)に比べればわずかですが、低体重や循環不安定例では影響が大きくなる可能性があります。
【ポイント】
成人安定症例では影響はほぼなし。
小児・低体重・循環不安定例では増加分が負担になる可能性があります。
TMP(膜間圧力差)の安定性
大きな膜では、同じ除水・濾過条件でも単位面積あたりの負荷が軽く、TMPの上昇が緩やかになります。
これは凝固リスク低減にも有効です。
- 除水1L/h : 1.1㎡ vs 2.1㎡
- 濾過12L/h : 1.5㎡ vs 2.1㎡

【ポイント】
高除水・高濾過時は大きめの膜でTMP上昇を抑制できます。
コスト・診療報酬のバランス
大面積膜は仕入れ価格が高くなる傾向があり、2.5㎡以上では納入価格が上がる場合があります。
診療報酬は変わらないため、使い方によっては収益を圧迫することもあります。

例えば、2.1㎡と2.5㎡の膜で納入価格に 40円/本 の差があるとすると、週3回の透析を1年間続ければ、
$$ \text{年間透析回数} = 365 \,\text{日/年} \times \frac{3}{7} = \text{約 }156 \,\text{回/年} $$
$$ 40 \,\text{円/回} \times 156 \,\text{回/年} = \text{約 }6{,}240 \,\text{円/年} $$
患者1人あたりで 約6,240円/年 のコスト差となります。
もし20人に使用すると、年間で約12.5万円の差になります。
【ポイント】
コストと効果を天秤にかけ、必要症例に絞って使用しましょう。
日常的使用は経営面の影響も考慮が必要です。
まとめ
透析膜の選択は、単純に「大きい=良い」では判断できません。以下のように、
- 透析効率(特に中分子)
- プライミング量と循環動態
- TMPの安定性
- コストと診療報酬のバランス
を総合的に考慮し、患者ごとの最適解を見つけることが大切です。
今回の4つの視点を参考に、あなたの現場でも最適な選択ができる一助となれば幸いです。
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【参考文献】
1)ニプロ ELISIOシリーズ
2)新田佳伯:有効膜面積がクレアチニンクリアランスに与える影響,日本機械学会第58回年次大会講演論文集,2020年
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